野次馬住宅時評 

     野次馬的視点で住宅を考え、射る 494号(通巻545号)2017.4.4

 

 

推理の訓練で設計力をつける本

 

     藤原昭夫氏+結設計の「美しく住まいを整えるデザインのルール85

 

H氏が鞄からだしたのは「美しく住まいを整えるデザインのルール8520169月エクスナレッジ発行、2400円+税)という本だった。建築家の藤原昭夫氏(株式会社結設計代表)と結設計がまとめたもので、「ああ、藤原さんの……」と本を手にし、ページをめくって「うーん」とうなった。「美しく居心地の良い住宅とは何か」を解説した本で、84のデザイン事例をA4版の大きさで見開きで紹介するのであるが、写真は小さく見せる本ではない、文章もおおむね短くて、たった124字で解説する事例もあって、読ませる本でもなかった。では何にページを割いているかというと図面である。だから、家づくりで始めの一歩あたりの人であると面白くはない。図面を見てニヤリと楽しめる人ならこの本はとても面白い。

 

 美しいものには棘や毒があるといわれるが、住まいも同様、美しさの中に棘や毒がある。その棘や毒はいろいろな条件で構造上での矛盾などとして内包されるのである。そうであるからTVに映される美しいデザインの家が半面構造を無視した危険な家であったりすることもある。デザインの美しさと棘や毒ある要素をどう調和させるのかー―。藤原氏はあとがきの中で〈「設計とは矛盾を矛盾のまま遂行しつつ、目的を矛盾なく達成する技」と捉えていて、矛盾はあって当たり前で、それを克服するから面白味があると思って仕事をします。〉と書くが、この本はいろいろある矛盾を克服した例と克服しきれなかった例を紹介していくのである。

 

 84のクエスチョンで設計上の矛盾点を紹介していくが、例えば「南隣家にのぞかれない配置計画とは?」というクエスチョンは、南に庭をつくると隣のアパートの2階廊下から丸見えになるので、さて、どうするかというものである。その答えは大胆であった。主室を北に寄せて、回廊型に中庭をつくって、円形状に庇を出していくのである。その大胆なつくりを図面で楽しめる。

 

 クエスチョンに対してすぐに図面や写真・文章を読まずに、自分ならどうするかと考えると、この本の楽しさが何倍にもなるし、たぶん、著者が望んでいる読み方であろう。自分で推理し、いい回答を出せるなら、設計力もついたのだ。もっと設計力をつけるために、この本で推理の訓練をしていこう。

 

 

 

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